レビュー「うさぎ強盗には死んでもらう」

著者:橘ユマ
掲載サイト:カクヨム


「私が用意した秘密兵器に、言葉もないようですね」
「え? そこ? どう見ても力技なんだけど」
「何を隠そう、この子はスチールヘッドのタクティカルペン! これをボディチェックで見過ごすなんて、M&Dも温ぬるいですな!」
「『ペンで錠が突き破られるケース』てマニュアルに載ってたら、あたしはきっと会社を疑う」
「所詮ステンレスですよ! 百均のスプーンと同じですよ! そりゃ簡単にぶち破られますとも!」

─────監禁されたときの脱出の仕方

  • いくつもの伏線と真実の中に隠された秘密。きっとあなたも、うさぎ強盗に騙される。
  • 過去の上海と現在の日本。交わされるいくつもの偽名。あの人は現在なんと名乗っているのか。
  • 何処かずれたキャラクターたちによる、クスリと笑える軽妙な掛け合いがいい!

web小説において作品数が少ないミステリ系です。泥棒二人の登場から始まり、人身売買組織、マフィア、殺し屋等のを含んだいくつもの組織の思惑が事件を織りなします。
この手のお話というと難しい話と思われるかもしれませんが、描写は分かりやすく、登場人物もそれぞれの個性が強く見分けがつきやすいためかなり気楽に読むことができました。

マフィアから大金を奪った天才賭博師「うさぎ強盗」は、暗殺者に狙われ、悪鬼はびこる闇社会の中心へと身を投じていく。京都と上海、リンクする2つの舞台。個性豊かなキャラクターたちが銃とナイフと電脳を交えた殴り合いを繰り広げる中、うさぎ強盗の影が次々と状況を覆していき……

※作品あらすじより引用

  • いくつもの伏線と真実の中に隠された秘密。きっとあなたも、うさぎ強盗に騙される。

ミステリというジャンルにふさわしく、様々な事象が伏線として、後々に効いてきます。
そういったものは第1話からすでにちりばめられております。一見すると普通のコメディチックなやり取り。しかしそういった中にも気づかないように、密やかに伏線は仕込まれます。

この作品、最初はプロローグから始まりますが、どんな雰囲気の作品かを手早く知りたいならそこは読み飛ばし、先に1話だけ読んでみるのもいいと思います。
ただそれだけでも、話の最後まで読んだときには「あぁ、なるほど!」と思えることでしょう。

本当でしたら、もっと面白かったところはたくさんあるのですが、この手のはネタバレせずに紹介するのが至極困難なので、ぜひ自分の目で読んでいただければと思います。

  • 過去の上海と現在の日本。交わされるいくつもの偽名。あの人は現在なんと名乗っているのか。

この話は、二つの時間軸の話が交互に展開していく形式で進んでいきます。
「梟」「鈴蘭」「椿」「鴉」そして「うさぎ強盗」等の登場人物が出てくる過去の上海。
「黒崎雅也」「天野樹里」「篠原斗真」「一ノ瀬譲」そして再掲、「うさぎ強盗」が出てくる現在の日本です。

上海で出てくる登場人物の多くが、殺し屋としての偽名であり、本名は別となっております。
では、彼らは今なんと名乗っているのか。一年前の上海でいったい何があったのか。それらがミステリの要素として絡み、読者の予想と想像を掻き立てます。

推理物などでは何を予想するかと言えば犯人であることが多いですが、僕はこの作品においてはむしろ誰が誰なのかを必死で考えさせられました。もっとも、それもことごとく外されましたが、実によいトリックが仕掛けられててとても面白かったです。

  • 何処かずれたキャラクターたちによる、クスリと笑える軽妙な掛け合いがいい!

ミステリと言えば重視されるのは話の展開、シナリオなどであり、キャラクター性は二の次―――かと思いきや、全く持ってそんなことはありません。

明らかに勢いだけで生きている泥棒と突っ込み役の相方
なかなか吐けない台詞ボロボロこぼすと評される中二病のハッカー
元一般人とは思えない謎の胆力を振るいまくる復讐者

といったキャラクターたちによるボクとツッコミの応酬が繰り返されます。

自分が一番好きなのが冒頭で引用させていただきましたやり取りです。面白いのもそうですが、タクティカルペンなんてものの存在を初めて知りました。それでドアノブ突き破れるのも流石といったところではあるのですが。

文章的に短いかもしれませんがこれにて閉めさせていただきたいと思います。なにせミステリというジャンルである以上、ネタバレせずに紹介するのには無理がありますからね。ぜひ皆様自身に読んでいただきたく思います。

著者:橘ユマ
掲載サイト:カクヨム